山名/標高 安達太良(あだたら)山
 和尚(おしょう)山/1602m
 安達太良山/1700m

船明神山手前から望む安達太良山(左)と和尚山(右)

登山日・天候 2003年6月7日(土)・曇
行程 石筵牧場(07:00)〜銚子ヶ滝入口(07:30)〜銚子ヶ滝(07:45)〜石筵川渡る〜和尚山山頂(09:50)〜縦走路〜安達太良山山頂(11:50)〜牛ノ背〜船明神山(12:30)〜母成峠分岐(13:40)〜銚子ヶ滝入口(14:30)〜石筵牧場(15:00)
安達太良山は郡山市、二本松市、福島市の境界に沿って南北数kmに連なる山塊の主峰(最高峰は1728mの箕輪山)。みちのくの名峰として古くは「万葉集」にも歌が残されているが、高村光太郎の名作「智恵子抄」に取り上げられたことで、より広く名を知られるようになった。なだらかな丘陵の上に大きな岩塊がそそり立つ山頂部の独特の形状から「乳首山」の異名を持つ。
二本松市や福島市側の山麓には多くの温泉が湧き、登山ルートもこちらを起点としたものが主流で人気が高い。東麓の奥岳から標高約1350mまで一気に上るロープウェイ(あだたらエクスプレス)が設置されたことで、登頂はいちだんと容易になった。
和尚山は安達太良山系の南端に位置する山で、南北に長い頂稜が特徴的。江戸時代に書かれた谷文晃の「日本名山図会」では、安達太良山(吾田多良山)としてこの山が紹介されている。
山頂にはササが生い茂り、安達太良山への縦走路もササ漕ぎを余儀なくさせる難コース。山と渓谷社の分県登山ガイド「福島県の山」(2002.03改訂版)では、和尚山から安達太良山への縦走路が紹介されているものの、ルートの状況については詳しいことが何も記されていない。利用にあたっては充分注意を。

磐越自動車道・磐梯熱海ICを下りて北上し、石筵(いしむしろ)ふれあい牧場の駐車場に入る。
「銚子ヶ滝」入口までは、ここからさらに約3kmの舗装路(上り坂)が続いていたのだが、そうと知らずに最下部で車を降りてしまい、霧に包まれた朝の牧場を延々と歩く羽目に・・・

ちなみに、近くを走る有料道路「母成グリーンライン」からもいくつか登山路が延びている。

上り坂を急ぎ足で30分、やっと銚子ヶ滝入口に到着。「和尚山を経て安達太良山」の看板に、この先もずっと整備された登山道が続くものと確信していたのだが・・・・・

銚子ヶ滝は、登山道から脇道に入り約300m下った場所にある。この300mの区間はいちおう手すりの設けられた階段だが、かなりの急勾配で一部鎖のかけられた場所もある。

銚子ヶ滝 高さ48m
...形が酒を入れる銚子に似ていることから名付けられました。安達太良山から流れ出る清流は、福島の名水30選にも選ばれています。また、この滝は、娘を人身御供にすると、滝つぼにひそむ竜神が雲を呼び雨を降らすと言い伝えられています。(説明板より抜粋)

滝を見て登山道に戻り、滝の上流部(右画像:石筵川)を渡って和尚山登山口に取りつく。
この場所はまだ水量が多く、川幅もかなり広いため、ひょいと飛び移るというわけにはいかなかった。流れの上に横たわる倒木の枝を頼りに、足を滑らせないよう慎重に渡る。

その先は、和尚山の頂上まで延々と、単調に登り続ける道。周囲は木々に覆われ、ほとんど眺めはない。

ようやく樹林帯を抜け、ササと低木の斜面に出る。
振り向くと雲海に浮かぶ山々。行く手には、ササの間から岩が露出した道・・・道か、これは?
奇妙なことに、山頂に近づくにつれて道は険しく、というか荒れ加減で、細い踏み跡とテープを辿り、岩を乗り越えたり、ヤブ漕ぎさせられたり・・・
それでも、山頂にたどりつけば広い縦走路が待っているだろうと、このときはまだ、思っていた。
山頂らしき場所に到着・・・「テープだけ?標識は?」「三角点がない!」
灌木の上に、わずかに雪の残る安達太良山の山頂部が見える。
しかし、そこへ至る縦走路は・・・
「安達太良山へ」と標識が示す道も、ほとんどササに埋もれかけた細い道。ひょっとして道を間違えたのかと訝りながらヤブをかき分け、かがみ込むようにして踏み跡を確認。
残念ながら、確かにこの道で間違いないようであった。

和尚山山頂部北側から、ヤブの切れ目ごしに望む安達太良山。このヤブが早く途切れることを願っていたのだが・・・
願い空しく、数kmに渡って続く縦走路は、ササが踏み跡を隠し、木の枝がリュックや袖を引っ張るヤブ漕ぎルート。途中ですれ違ったのは1組だけ。
「この先もヤブですか?」「もう、ずっとヤブでした」「この先もヤブですよ」「・・・・・」がっかり。
山頂に向けて傾斜が増すにつれ、雪解け水?でぬかるんだ地面が滑りやすくなるという最悪の状況。もがくようにしてササや枝を掴み、必死で前進するうちにようやく見晴らしが良くなってきた。
振り向いて、初めて目にする和尚山全容。
ヤブを抜けると、いきなり目の前に山頂が顔を出した。いままでの寂しさがウソのような人ごみ。"乳首"の上にもたくさんの人が立っている。安心感でその場に座り込み、10分近く休憩を取った。落ち着いてからハイマツの間を上り、山頂前の広場に到着。
空は雲に覆われ「阿多多羅山の上に毎日出ている青い空」が見られなかったのが残念だった。機会があればぜひまた登りに来たい。

もちろん次回は絶対に和尚山は通らない。
(左)山頂前広場から和尚山を望む。荒涼とした安達太良山頂と好対照をなす緑の稜線。しかし、見るだけにとどめた方が無難である。ヤブの好きな人はどうぞ。

(右)安達太良山山頂の祠。「八紘一宇」の刻まれた碑は、紀元2600年を記念して昭和15年に建てられたもの。


山頂、"乳首"のてっぺんより北西方向の眺め。晴れていれば遠くに吾妻連峰や飯豊連峰が見えるはず。
山頂を下りて「牛ノ背」と呼ばれる稜線を歩く。赤茶けた土に溶岩が転がり、周囲には硫黄臭が漂う、この世ならざる光景。
そういえば鬼婆伝説で有名な安達ヶ原もこの近くである。

矢筈ヶ森を越えて鉄山まで、片道30〜40分くらいと予想されたが、先ほどの縦走で時間を取られてしまったので、手前の分岐から船明神山へのヤセ尾根に入る。疲れのせいか、土質か、何となく滑りやすい地面に足が落ち着かない。

船明神山と鉄山の間、安達太良山塊の北東に広がる沼ノ平。くぼみの中央でぶくぶくと温泉?が沸き立つのが見える。ここは元々、沼尻温泉につながる登山ルートの一部だったが、1997年9月、有毒ガスにより4人が死亡する事故が発生して以後は進入禁止となった。
安達太良山の西、遠望すると船の形に見えるという一帯を「船明神山」と呼んでいる。ガイドブックにも地形図にもその名は記されているが標高は記されておらず、実際に歩いてみても、三角点も標識も見つからなかった。ここからは南西方向に尾根を下る。
「日本百名山」に書かれた下山ルートもこれで、深田久弥はこの道を母成峠(文中では保成峠)に下ったとある。銚子ヶ滝への下山ルートは、途中の分岐(道ははっきりしているが標識はない)から左に別れて、さらに長い距離を下ってゆく。

下山後は猪苗代町へ移動し、温泉入浴&民宿で1泊。

あどけない話

智恵子は東京に空がないといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
 

智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山の山の上に
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。

高村光太郎「智恵子抄」より
(画像は東北自動車道・安達太良SAからの眺め)