山名/標高 大山(だいせん)
 野田ヶ山(のだがせん)/1344m
 振子山(ふりこせん)/1452m
 三鈷峰(さんこほう)/1516m

矢筈ヶ山(やはずがせん)/1359m

登山日・天候 2004年10月17日(日)・曇のち晴
行程 豪円山キャンプ場(07:40)〜川床(08:25)〜大休峠(09:45)〜矢筈ヶ山(10:25)〜大休峠(11:05)〜野田ヶ山(11:35)〜親指ピーク(12:00)〜振子山(12:25)〜ユートピア小屋(12:55-13:50)〜三鈷峰(14:05-14:15)〜上宝珠越(14:35)〜中宝珠越〜下宝珠越(15:30)〜宝珠山〜スキー場リフト降場(15:45)〜豪円山キャンプ場(16:00)

これが「三鈷」。
「三鈷」とは、密教に用いられる法具のこと。三鈷峰は、標高1729mの剣ヶ峰を頂点とする大山主稜から北東方向に延びる尾根上のピークで、登山道は北麓の大山寺から宝珠尾根、または東の大休(おおやすみ)峠から野田ヶ山、振子山などのピークを連ねる尾根を越え、いずれも夏場はお花畑の「ユートピア」となる一帯を通って山頂へ。どちらも急峻なヤセ尾根上につけられた細い道で、現在も崩壊が進行しており最後の最後まで気が抜けない。
すっかり「観光道路」化した夏山登山道に比べ距離が長く険しく登り応えがあり、道中で出会うベテラン登山者(天狗ヶ峰、剣ヶ峰を目指す人も多い)との会話も楽しいルートだが、利用にあたっては細心の注意が必要。大山町観光課の公式HPを見る限り、ユートピア〜三鈷峰や親指ピーク周辺の縦走路は鳥取県西部地震(2000.10.06)以降、公式には通行禁止となっているようである(2004.10現在。更新されていないだけかも?)。


家紋に用いられる「矢筈」。
大山主塊から東に高度を下げる稜線が大休峠で一段落した後再び高度を上げ、最初に現れるピークが矢筈ヶ山。野田ヶ山や親指ピークからはきれいな三角形に見えるが、山頂の裏(東側)には「小矢筈」と呼ばれる急峻な岩稜が突き出ている双耳峰で、これが山名の由来と思われる(矢筈は矢を弓につがえる凹部のこと)。
矢筈ヶ山からはさらに北に向かって稜線が延び、小矢筈、甲(かぶと)ヶ山、勝田ヶ山とピークを数えながら徐々に高度を下げ、標高616mの船上山に至る。この山々の連なりは約60万〜40万年前に活動していた古期大山の溶岩流によって作られた外輪山の浸食によりできたものと言われている。船上山から大休峠まで、これらのピークを稜線伝いに歩いてゆく縦走路は、大山のなかでも最も距離が長く、かつ展望の見事なことで人気の登山ルートである。

豪円山キャンプ場に車を停め、「大山高原マラソン」のコースの一部である県道30号線を伝って川床へ移動。ほとんど下り坂のルートで車道歩きもさほど気にならない。
朝早いうちから狭い駐車場が満車となり、路肩まで車があふれる川床から大山滝のある一向平(いっこんがなる)まで、中国自然歩道として整備された歩きやすい道が続く。
平安時代から山岳仏教の聖地として栄えた大山には、「大山道」と呼ばれる古い参拝路が今も残されている。
川床から大休峠への道に残る石畳も、慶長年間(1600頃)に寄進造成されたものや、約150年前に地元の庄屋が私財を投げ打って造ったとされるものなどが混在し、長い歴史を今に伝えている。
大山の上空は朝からずっと雲に覆われたまま。天気予報は「曇のち晴」で、いずれ回復することを期待しつつ大休峠にたどり着いたが、相変わらず空はどんより、ブナ林の向こうに見えるはずの矢筈ヶ山はガスの中。
「もうすぐ晴れてくる」という近くの人の言葉にわずかの期待を込め、予定どおり矢筈ヶ山の山頂へピストンをかける。
急坂を上るにつれてガスが濃くなり、一等三角点の山頂はやはり真っ白。
ときどき空に薄日が差し、霧のドームの中がパッと明るくなるのは天気回復の兆候か?しかし、じっと待っているほどの時間もないので少し休んで下山開始。
見通し悪く滑りやすい山道。こんな状態が続くと・・この先に待つ、まだ歩いたことのないヤセ尾根の縦走に一抹の不安がよぎる。
来た道を下り大休峠が近づいてくると、木々の向こうに大山主稜が少しだけ姿を見せはじめた。強い風にガスが吹き飛ばされたかと思うと、またすぐに谷から新しいガスの塊が吹き上げられてくる。
次第に天気が回復しているのは確かなようだが、風の強いのが気になる。

大休峠からは避難小屋の脇を「大山頂上」方面へ、少しぬかるんだ斜面を上る。

山頂標識がぽつんと置かれただけの野田ヶ山山頂からは、ガスの晴れ間に先ほどの矢筈ヶ山やこれから越える親指ピークが見える。天気はいちだんと回復に向かっている。
しかし・・・親指ピーク、やはり怖そう。
親指ピークに近づくと再びガスが濃くなり、あたりは真っ白に。谷底が見えなくなったのは好都合?だが、脆そうな岩壁に取り付けられた頼りなさそうなロープを掴んでトラバースするのは、やはり怖い。
このピークの頂上には木彫りの仏像が置かれているという話で、ガイドブックにも写真入りで紹介されていたが、岩にしがみつきながら見渡した限りでは、確認できなかった。先月の台風で飛んでいってしまったのだろうか?
恐怖の親指ピークを越えてひと安心、と言いたいところだが、振子山へ続くヤセ尾根にはまだまだ危険箇所が多く、気の抜けない状態が続く。
振り向けば矢筈ヶ山、甲ヶ山がはっきり全容を現している。
前方の大山本峰はまだガスの中。その手前の進路上に、大きな岩が突っ立っている。何の標識もないがここが振子山の山頂。
振子山に立つと、さらに上へと続く稜線の先に、ユートピア小屋と三鈷峰のピークを確認。先へ、先へと気持ちははやるが、崩壊の進む縦走路はなかなか急ぎ足を許してくれない。植物に覆われ比較的緩やかな南側斜面に対し、北側斜面は切り立って、というか半ばえぐれたようになって、道のすぐそばまで断崖が迫っている。ロープもなく、断崖に背を向けてそろそろと横ばいに通過。
ヤセ尾根を抜け急坂を上ると、字が消えて読めない標識が立っている。三鈷峰がある方向に進むと、今度は標識のない二叉分岐。近くにいた人に道を尋ね、ユートピア小屋へ(逆に進めば天狗・剣ヶ峰方面である)。
ユートピアには冷たい風が吹き、かなり寒い。小屋は満員に近かったが、外に出てきた1グループと入れ替えに中へ入り、土間で湯を沸かして昼食にした。
大山山頂部のガスはかなり晴れてきたが、なかなか稜線をくっきりと見せてくれない。
小屋の北にそびえる三鈷峰には、大山寺から仰ぎ見たときの「槍」か「剣」かというような峻険さはなく、登り易そうな感じ。しかし、取りついてみると先ほどの縦走路同様、緑の南斜面と断崖の北斜面の間に細く危険な道が延びている。落ちるなら絶対南側に!
ヤセ尾根にしがみつくようにしてケルンの積まれた三鈷峰山頂へ到着。しばらく休んでいると大山北壁のガスがすっと消えてなくなり、今さらのように真っ青な秋晴れの空が広がってきた。
もう少し回復が早ければ・・と思いながら北側に切れ落ちた谷に残る雲を見ると、虹のリングの中に立つブロッケンの妖怪が!
すごく得した気分で、午前中の悪天候もこのための準備だったと良い方に考えることにした。

眼前に広がる大山北壁の素晴らしい眺め。延々と歩いてきた甲斐があった。
三鈷峰からは来た道を戻り、ユートピア手前の分岐を宝珠尾根に下る。砂や小石が積もって滑りやすい上宝珠沢("砂滑り"という下山路ショートカットの裏技もあるが危険)から、ロープや木の枝伝いに急坂を下る上宝珠越、中宝珠越と、相変わらず気の抜けない場所が多く、疲れきった足にひどくこたえた。
宝珠尾根上のブナは一部紅葉していたが、色は良くない。
特に標識もない宝珠山を越えて北に下り、周囲の木々がブナからミズナラに変わってくると、まもなく中ノ原スキー場リフト降場に出る。ここからは草に覆われたゲレンデを小走りに下り、もとの駐車場へ。
振り向くと雲ひとつない空に大山の稜線が美しい。